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学会案内|会長挨拶

会長挨拶

一般社団法人日本雑草学会としての取り組みの経緯と今後の活動について

2022年4月に日本雑草学会の役員が交代し、新たな業務執行体制に移行しました。理事会を代表して、一般社団法人日本雑草学会としての取り組みの経緯と今後の活動について簡単に説明をさせていただきます。

1962年発足の「日本雑草防除研究会」を前身として1975年に設立された日本雑草学会は、2019年3月に一般社団法人日本雑草学会として新たなスタートを切りました。この法人化にあたって、運営を法律の規定により制定する定款に沿ったものにする必要が生じましたが、実際場面で会員の皆様の活動に混乱を来さないように、従来の学会活動との連続性が極力担保されるように各種制度を整えました。たとえば、設置が義務付けられる理事会は法人化前に学会運営の中心を担ってきた幹事会から、代議員は各地域の会員代表であった評議員から移行するような形をとりました。その後、前業務執行体制までの2年間は試行錯誤で運営を進めながら、不都合が見つかればその都度法人化委員会を中心として定款、規程の見直しを行い、必要な改正を行ってきたところです。そのような努力の甲斐あって、現在に至るまで大きな混乱もなく円滑な運営を進めることができたと考えています。これは與語靖洋元会長・前法人化委員長、渡邊寛明元会長、内野彰前会長をはじめとする歴代理事会のご尽力によるところが大きく、関係各位にあらためて深く感謝申し上げます。

また、2021年は学会発足60周年という節目の年でした。このため、前年の2020年に「創立60周年事業実行委員会」を設け、次の特別事業に取り組んできました。(1)有用資料の作成と配布(会員の皆様からご提供いただいた多くの雑草の写真を整理した雑草アーカイブや除草剤解説集)、(2)記念大会の開催(記念講演会、記念シンポジウム)、(3)60年のあゆみの作成と配布、(4)向こう10年の活動を支える資金の充実。このうち、「雑草アーカイブ」や「60年のあゆみ」はすでに完成し、「除草剤解説集」もまもなく配布の運びとなります。また、会員の皆様からは多くの寄付をいただき、活動資金の一層の充実を図ることができました。心より御礼申し上げます。

ここ数年は若手研究者の研究活動を支援する各種事業にも積極的に取り組んできています。研究費の支援を目的とした研究課題補助事業や、雑草研究者育成講座です。研究者育成のための活動は重要課題の一つであり、引き続き積極的に進めて参ります。

一方、講演会と対をなす重要な行事であるシンポジウムは、従来シンポジウム委員会が主導して実施してきましたが、近年、特定分野に限った議論を目的として設置される学術研究部会が企画する形態に変更されました。その結果、課題設定が明確になり、議論も深まる傾向があって、参加者は増加傾向です。運営上の工夫の大きな成果だったと思います。

このように、近年は法人化を始めとして多くの事業が目白押しで、特別に設立された委員会による活動が積極的に展開されましたが、皆様のご協力により多くの取り組みで概ね所期の目的を達成できたように思います。また、研究者育成などさらに強化が必要な課題がある一方で、シンポジウムなど、取り組みの進め方が変化したものもあります。このような状況を踏まえて、今期は目的を達成した委員会をいったん整理するとともに、それ以外の各委員会についても活動の実態に即してより大きな効果を期待して統合を進めることにしました。その結果、従来の11委員会は財務委員会、和文誌編集委員会、英文誌編集委員会、学会賞選考委員会、国際交流委員会、企画委員会、用語委員会の7委員会に集約されました。

企画委員会は新設で、従来のシンポジウム委員会、雑草研究者育成委員会、研究課題補助事業選考委員会の機能を引き継ぎ、横の連携によって重要な課題に適時的確に対応する新たな活動を積極的に繰り出すことを目的として設置したものです。また、用語委員会は、長年取り組んできた用語集の改訂作業に加えて、創立60周年事業で新たに生み出されたコンテンツや、学会が長年蓄積してきた数多くの学術上または技術開発上の重要な情報を整理・深化させ、社会に情報発信する役割を担うことになります。

ところで、日本雑草学会としても長年の課題だった植物防疫法の一部を改正する法律(令和4年法律第36号)が2022年5月2日に公布されました。これにより、同法の対象として雑草全般が初めて加えられることになりました。ただし、法律が定めるのは枠組みだけで、具体的な草種が省令で定められない限り実効性は生じません。皆様ご承知のとおり、担い手の減少を根源的な要因として、雑草管理に対する社会的ニーズは高まっています。にもかかわらず、それを学術や技術の面から支えるべき大学や公的研究機関などの関係部署は縮減の傾向にあって、日本雑草学会の会員数も減少しつつあるのはあまりにも残念です。日本の国土の保全、農業・農村の再興のためには雑草学の分野としての広がりと議論の深化が不可欠で、その足がかりの一つが改正植物防疫法であるとすれば、同法に内容を注ぎ込むために必要な深く確実な情報を確保し、社会や行政に届けるとともに、それに必要な施策を展開する責任は当学会自身にあります。これが上述した業務執行体制の刷新の目的の一つでもあります。重要課題の一つとしてあげた研究者育成に向けた活動も、一般論としての支援にとどまらず、当面は改正植物防疫法の枠組みの中で期待される具体的人材の育成にも踏み込む必要があると考えています。

国内の新型コロナウイルスの感染状況は一進一退を繰り返し、結局第60回、61回と2大会連続でオンラインでの開催となりました。各大会運営委員会ほか、運営に携われた多くの皆様のご苦労に思いを致し、深く感謝申し上げます。研究成果の発表の機会が大きく拡大した今、多くの学会が運営のあり方を再考せざるを得ない状況に置かれていますが、研究者同士のつながりの機会の提供に学会の大きな意義があることは明らかで、そのための活動が制約される状況は大きな困難と言わざるを得ません。しかし、対面ではない学会活動の様々な可能性を知ることができた貴重な2年間だったような気もしています。

日本の国土、農業・農村、また社会全体としても大きな変動期にさしかかっている今こそ、未来に向けた変革の大きなチャンスととらえ、日本雑草学会はその対象とする学問分野の立場から、社会的な要請にしっかりと応えていく必要があると考えます。会員の皆様にはより一層のご尽力を賜りたく、なにとぞよろしく願い申し上げます。

一般社団法人 日本雑草学会
代表理事・会長  小林 浩幸

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